ざっくり言うと、この篇は時間帯による身体の変化に合わせて鍼灸をやるということについて書かれています。かなりまとまりがある篇です。
岐伯曰、凡刺之法、必候日月星辰四時八正之気、気定乃刺之。
是故天温日明、則人血淖液、而衛気浮。
故血易写、気易行。
天寒日陰、則人血凝泣、而衛気沈。
月始生、則血気始精、衛気始行。
月郭満、則血気実、肌肉堅。
月郭空、則肌肉減、経絡虚、衛気去、形独居。
是以因天時、而調血気也。
黄帝内経素問.八正神明論篇.
この後に続いて、上記の変化に合わせた刺法が記されていますが割愛します。
一日の中で身体がどう変化していくかは現代の鍼灸でも考えます。朝と昼と夜とでは当然身体の状態が違いますし、仕事や家事など活動状況によってもまた変わります。そういう日内変動を古代の人も考えていたということですね。
ただ、時に合わせて鍼をやるとかやらないを決めることは私はしないので、その部分は省略しました。
時は守らないけど
古代と現代との生活は全く違います。
医療制度は全く違っていますし、古代にPCは無いし、様々な仕事が24時間行われているような状況もありません。身体に起きてくる問題も変わっています。そんな中で「この時は鍼をしない」なんて言っていられません。
ただ、季節や施術する時間帯などによって微調整は必要なので、それぞれの鍼灸師がその辺りを考えながら鍼灸をやるわけです。
例えば、夏のように暑い季節は来院時はだいたい汗をかいています。涼しい室内に入っても汗はすぐには止まらないため、施術中に身体が冷えてきます。体幹部だけ冷えてくる人もいますし、手足が冷えてくる人、足だけ冷えてくる人、いろいろです。
そういう反応を確認しながら、それに合わせて冷房を調整したり、施術中に冷えないように出てくる汗は拭き取ったり、汗が止まりそうになったら保温に切り替えたり、暑さでのぼせやすい体質なら手足に引くあるいは足だけに引くというようなことです。
また季節とは別な問題として、そもそも来院直後は身体が大きく変化している最中ということもあります。
遠方から歩いて来られた場合は足は温まっているけど手が冷えていたりします。バイクで来られた場合などは全身冷えていたりします。それが冬なら正常ですが、夏でもそうなっているなら問題です。
極寒の冬にバイクで来られたのに身体が温かいのなら凄く良い状態かもしれませんし、熱が過多かもしれません。どちらにしても、来院直後にいきなり鍼灸をやることはしません。来院直後の状態から時間経過とともにどう変化していくのかをみていくことが大切です。
ちなみに、現代でも古代の刺法を守りつつ鍼を行っている地域もあります。内蒙古(内モンゴル)医学には気候によっての決め事があるようです。私は内蒙古医学に詳しくありませんが、例えば「雨が降っている時は鍼をやらない」というものがあります。これ、建前とかではなく、本当にやらないんです。
方円
この篇には「方」と「員(円)」という言葉が出てきます。霊枢にも出てきますが、それとは解釈が違うというか言葉の用い方が異なります。
実は、この方と円を合わせて「方円堂 鍼灸」というのが最初につけようと考えた屋号だったのですが、調べてみたら方円堂というのは屋号としてけっこう使われていたんですよね。。しかも近所にも(医療系業種ではない)。で、やめました。
岐伯曰、写必用方。
方者、以気方盛也、以月方満也、以日方温也、以身方定也、以息方吸而内鍼。
乃復候其方呼而徐引鍼。
故曰写必用方、其気而行焉。
補必用員。
員者、行也。
行者、移也。
刺必中其栄、復以吸排鍼也。
黄帝内経素問.八正神明論篇.
瀉は吸気で入れ呼気で徐抜し、補は吸気で抜く。
…形乎形、目冥冥、問其所病、索之於経、慧然在前…神乎神、耳不聞、目明、心開而志先…
黄帝内経素問.八正神明論篇.
しっかり病状を聞いて身体をみればちゃんと病は分かる、そして、四診の望だけでわかる人もいるとあります。
この望だけでわかるということへの解釈はいろいろあるだろうと思いますが、私は日々真摯に真剣に努めてきた結果としてそうなるのだと思っています。最後まで言葉としては説明できなくても、そこまではちゃんとロジックもある。
世の中には何も努力しないでそうなる人もいるかもしれませんが、私はそんな人に会ったことがありません。努力してきた結果としていつの間にかそれが可能になる。そういうことだと思います。