中神琴渓

独自

中神琴渓江戸後期に活躍した医師で、独自の漢方処方を中心に鍼灸も行っていました。『生生堂医譚』『生生堂雑記』『生生堂治験』『生生堂養生論』などがありますが、どれを読んでも独自色が強いです。

どの書も面白いのですが、鍼灸だけなら医譚と治験を読めばだいたいの思想はわかります。

中神琴渓が医師になったのは30〜40代のようですが、古今の医学の研究を相当やったようです。ただ、独自色が強いためその処方には反発も受けたようです。ですが、医譚にしても他の書にしても医学を深く考察しているのがわかります。

偏っている部分はありますが読んでいて面白いし参考になります。

要点をおさえること

中神琴渓は要点をおさえることが凄く上手いんですよね。何せ、自分でそう言ってますから(笑)

だから弟子たちにもそれが大事だと繰り返し話しています。それは『生生堂雑記』に詳しく書かれています。

例えば、、、たいていの医学書は8〜9割が嘘が書いてあると言い切ってます。それを見聞きした当時の医師がどう反応したか容易に想像できます。こわいこわい。

「嘘」とまで言わなくても、後付け的な文だったり誇張されたところが多分に含まれていたというのは理解できます。

常に本質を見極めろ、ということですね。

こういう歯に衣着せぬ発言は敵をつくりますが、結果を出せば味方も増えます。

深い考察あってこそ

中神琴渓の理論は独自色が強いですから、さぞや異端児扱いされたのだろうと思いますが、その理論は面白いです。

(筆記されている部分としては)語り口調が短くスパッと言い切られているため、微細に説明されているわけではありません。口も悪い(笑)

しかし、臨床的な効果が第一という主張とざっくりな説明から受ける印象とは裏腹に相当に細かく深く検証して至った結論なのだと思います。

そして例え話が上手い。だからわかりやすい。これもポイントをおさえるのが上手いからなのだと思います。

私は医師ではなく鍼灸師ですし漢方に詳しいわけでもありませんが、鍼灸の配穴をみてもそう感じます。

…又痧症ハ見ヘ子ドモ痧症ノ者アリ。手足ノ指頭ニテトル。面部ハ地倉福堂天庭聴宮百會髪際、口中ハ舌ノ中央或ハ横面、肩背ハ肩髃膏肓風門等ニテトルナリ。…

中神琴渓著.生生堂医譚.

*福堂…おそらく攅竹のこと。たいして調べていないので違うかも。

上に引用したのは『生生堂医譚』の中の「鈹鍼」の一節ですがとても臨床的だと思います。五行は無視してますね。

*私は五行的な思考(思想)が非臨床的だとは思いません。相生、相剋、相乗、相侮、反生などの考えはかなり臨床的です。自分の治療を振り返って検証するときにはここを徹底的に考えます。

中神琴渓の書は漢方処方や民間療法的なものの記載が多く、鍼灸処方についてあまり書かれていません。治験にも書かれていますが、ごく簡単に終わらせています。他にどんなことを考えて鍼灸をしていたのか気になります。

書を通してでなければ叶わないことですが、是非会ってみたい医師の一人です。

だいたい川崎たまに鳥取。