カッピング・吸角・吸玉と鍼灸治療

今回は、鍼灸院で鍼灸治療と併用して使われることがある吸角や吸玉について書いています。私も便利な道具としてよく使います。

カッピング(吸角・吸玉・角法)

カッピングは、吸玉(すいだま)吸角(きゅうかく)角法(かくほう)などとも呼ばれます。

呼び名はいろいろありますが、使う道具は基本的には同じです。小さなツボのような形をした器具を身体に吸いつかせる施術です。

吸角や吸玉の大きさは、直径1センチ(内径)くらいから10センチくらいまでいろいろあります。材質は、ガラス製やプラスチック製が多く、最近はシリコン製もあります。

珍しいものでは、金属製、竹製、土製(陶磁器)のものもありますが、日本ではあまり見かけません。中国や韓国ではそういう素材のものもけっこう使われるようです。

鍼灸治療とカッピング

鍼灸と吸角は昔から併用されていました。

日本でもかなり古い文献にそういった記載が見られ、江戸時代には鍼灸と吸角を駆使して活躍した人も出てきます。

江戸時代頃は、角法(かくほう)とか吸瓢(すいふくべ)とも呼ばれていたようです。

*吸角や角法の「角」は動物のツノ(角)からきていて、吸瓢は「瓢」は瓢箪(ひょうたん)からきています。

吸角や吸玉は、時代によって素材や使い方が少し変わってきています。

素材はツノや瓢箪ではなくガラスやプラスチックへ。使い方は「吸いつける」ことに変わりありませんが、現代では吸角を鍼灸とは併用せずに単独で用いることも増えています。

鍼灸治療を行うためには国家資格(はり師免許、きゅう師免許)が必要です。しかし、カッピングや吸角を行うのに免許は必要ありません。

そのため整体院やエステなどでもカッピングが行われることがあります。そういう機会が増えたために吸角が単独で用いられることが増えてきたのだと思われます。

また、自宅でのケアとしてのセルフカッピングをしている人も増えたなという印象があります。本当の数としてはわかりませんが、様々なECサイトでたくさん販売されていることから考えると昔よりは確実に増えていると思います。

いろいろなカッピング

カッピングや吸角の施術はいろいろです。

少し例をあげてみます。

  • 吸角を、多数使うor少数使う
  • 吸角を、長時間つけるor短時間つける
  • 吸角を、動かして使うor動かさないで使う
  • 吸角単独で行うor鍼灸やマッサージ、アロマなどと併用する

他にもあるかもしれませんが、だいたいは上に書いたような違いです。施術者によっては30個を超えるほど多数の吸角を長時間つけたり、1つの吸角を動かして使ったり、という具合です。患者によって調整するのは当然ですが、施術者によってそもそもの方針が大きく違います。

私は、「鍼灸と吸角を併用し、吸角は少数で短時間用いる」というのを基本にしています。

これ以外には、走罐法(スライドカッピング)という、吸角を吸いつけたまま縦横に皮膚上を滑らせていくような手法も場合によって用います。施術を受けている側の感覚としては、吸角でマッサージされているような感覚です。アーユルヴェーダの第一人者である上馬塲和夫先生はこのスライドカッピングをすすめておられます。

カッピングはその人それぞれのやり方があります。このあたりの自由度は鍼灸治療と似ていますね。

吸角・吸玉・カッピングの作用

吸角施術の作用は、吸角単独なのか、他の手法と併用するのか、どういう吸角施術をするのかなどの要素で変わってきますが、基本的な作用は次のようなことと思われます。

  • 吸角を行う場所を局所的に充血させる→毛細血管や循環への作用
  • 吸角を行う場所の組織を局所的にストレッチする→皮膚・間質・筋膜・筋肉など軟部組織への作用
  • 吸角のフチ部分で圧迫する→皮膚・間質・筋膜・筋肉など軟部組織への作用

この3つが基本的な作用です。

こういう作用を通して、臨床で経験する身体の反応は次のようなものです。

  • 吸角を行った場所があたたかくなる(全身があたたかくなることもありますが、吸角だけの作用なのかはっきりしません)
  • 吸角を行った場所の皮膚や筋肉がやわらかくなる(全体的にやわらかくなることもありますが、吸角だけの作用なのかはっきりしません)
  • 吸角を行った場所以外の顔や皮膚などの色合いが明るくなる(一時的に全身の血行がよくなることで皮膚の色合いが明るくなるものと考えられますが、吸角だけの作用なのかはっきりしません)

すぐに感じることは、だいたい上の3つだと思います。

ナゾ

吸角・吸玉・カッピングの効果ははっきりしていません。未解明なことが多くあります。

私は吸角を必需品だと思っていますが、吸角を全く使わない鍼灸師もたくさんいます。

鍼を全く刺さない鍼灸師や、灸だけで施術する鍼灸師もいます。同様に吸角を使わないのも鍼灸師それぞれの考えです。

使い捨て

吸角には使い捨てのものもあります。私も数年こればかり使っていた時期があったのですが、今はあまり使わなくなりました。

使い捨ての吸角はタコツボ型ではなくツリガネ型のものしか私は使ったことがありません。と言うかタコツボ型の使い捨てタイプは見たことがありません。

ツリガネ型は、その形状のために吸引圧が強い割に皮膚や筋膜など軟部組織へのストレッチ作用が弱いと感じます。そのため今はほとんど使っていません。*これは、私が使ってみた際の感覚的な印象と施術を受けた人からのフィードバックなので、詳しい検証が必要です。

また、個人的に、プラスチック素材をどんどん捨てていくことに抵抗があるということもあります。

ダンボール何個もの使い捨て吸角があっという間に廃棄物になるのは、あまりにもったいない。近年、病院でもプラスチック製品の使い捨て(ディスポーザブル)が問題となっていて、再利用する方法が模索されています。

なので、私はガラスの吸角を洗浄・消毒して使っています。この作業は一人一人必要になるため時間と手間がかかりますが仕方ありません。病院でも、使い捨てにしない食器類や診察・手術器具などは適切に衛生処理をして再使用しますからね。

洗浄・消毒

使用した吸角は、まずは医療器具用の洗剤で洗浄します。その後、次亜塩素酸ナトリウムという強力な消毒薬に一定時間浸けて消毒し、再び水で洗浄します。綺麗な水で消毒薬を洗い流す、リンスと呼ばれる作業です。

ここまで済んだら、あとは衛生的に保管しておくだけです。紫外線を利用した保管庫に入れておき、使用する時にそこから出して使います。

吸角の衛生管理の手順はだいたいこんなところかと思います。鍼は使ったら捨てるだけなので簡単なのですが、吸角はちょっと手間が必要です。

余談ですが、紫外線が持つ殺菌作用は強力です。紫外線保管庫は、紫外線の中でも特に殺菌作用が強い波長を使っているため、庫内では数十秒でほとんど全てのウイルスや細菌が死滅するほどです。

あ、殺菌作用は強力ですが、人には害にならないように設計されていますのでご安心を。開閉時は自動的に紫外線が止まりますし、外に紫外線が漏れないようになっています。

だいたい川崎たまに鳥取。